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カーマ・スートラには、他人と結婚している女性は、人が情を通じても差し支えない女性であるとし、人妻を誘惑する理由は、彼女は性的に自由な女性であり、彼女を口説くのは遊女を口説くのと同じく、法の掟を破ることにはならない、という記述があります。
いろいろ理屈が述べられていますが、現実的には、口説き落としうること、危険のないこと、誘惑に値すること、等を勘案して実行されるであろうと思われます。
男性がある人妻を見て強い愛着を感じ、一層愛欲が昂進するときは、自身の破滅を防ぐために、その人妻に近づくべきである、とも説いています。
愛欲の昂進は、十段階あるとされています。①一目惚れ、②物思い、③恋わずらい、④不眠、⑤身体の痩瘠（そうせき＝やせ細ること）、⑥感覚の喪失、⑦羞恥心の欠如、⑧狂気、⑨失神、⑩死。身体を壊すくらいなら、人妻であっても口説け、ということでしょう。
その場合、人妻の態度、特徴、身振り、素振りから、女性の性格、誠実さ、純潔さ、口説き落としうる可能性及び女性の気質を察知すべきである、と説いています。
女性は、美美しい（びびしい＝好ましい、立派である）男性を見ると、恋心を抱くとされています。女性は、正とか不正とかを顧慮せず、ただ一途に男性を恋するものですが、ある理由から、直ちに男性に心を傾けない場合があります。
男性から適当に求愛された場合には、女性は、心から恋い焦がれていても、一度は彼から遠のきます。しかし、再三再四求愛されると、女性は男性の意に従う、とされています。ただし、これは女性が恋い焦がれている男性からの求愛の場合であって、好ましく思っていない男性から求愛されても、振り向いてはくれないでしょう。
一方、男性が心で恋していても、聖法の掟と聖賢の慣例とを顧慮して、女性から遠ざかることもあります。この場合は、女性の方から熱烈に求愛しても、男性を容易に口説き落とすことはできません。
男性の場合、見境なしに女性に惚れ込み、求愛する場合もあります。一度求愛して不成功に終わった場合、二度とその女性に求愛しない場合もあります。女性を一度獲得すれば、その女性に対して熱が冷め、別の女性を求める傾向にもあります。また、得やすい女性を侮り、得がたい女性に恋い焦がれるという傾向にもあります。
男性から言い寄られた場合、女性がそれを斥ける理由について、述べられています。①夫に対する深い愛情、②子供に対する顧慮、③夫から暫時も離れる隙がない、④男性の気持ちがわからない・関心が生じない、⑤男性に直ぐに捨てられるかもしれない・他の女性に心を奪われるかもしれない、⑥男性の性欲が強すぎるかもしれない、⑦男性の性欲が弱いかもしれない、⑧男性のセックステクニックが巧みであることへの恥じらい、⑨これまで親しい友人関係であったために生じる羞恥の念、⑩時と場所をわきまえないで口説いてくる、⑪道徳に対する顧慮、など。したがって、男性はまず、女性が持つこれらの斥ける理由を除くべきである、と説いています。
女性に好かれる男性についても、記述されています。①カーマ・スートラの通暁者、②物語の巧みな人、③子供の時から睦み親しんでいる人、④女性の言うことをよく聞く人、⑤女性に親切な人、⑥女性の弱点を知る人、⑦眉目秀麗の誉れの高い人、⑧気前の良い人、⑨精力の強い人、⑩英雄、⑪知識・容姿・美点・性愛の享受の点で自分の夫より優れていると思われる人、などです。
容易に口説き落としうる女性についても、記述されています。①戸口に立つ女性、②常に隙見（すきみ＝覗き見）をする女性、③夫から斥けられた女性、④夫を憎み夫から憎まれている女性、⑤会合を喜ぶ女性、⑥色事を喜ぶ女性、⑦夫の死亡した少女、⑧元々好意を抱いている女性、⑨夫が遊行中の女性、などであるとされています。
交際の糸口についても、記述されています。処女は自ら求愛して口説き落とせるのであって、仲介する女性に頼っては成功しないが、心優しい人妻は仲介する女性を媒介して口説き落とせるのであって、自分から口説いても成功しない。また、可能である限り自ら試みるのが一番優れており、自ら行うのが困難な場合には媒介の女性を用いるべきである。密かに通じて邪魔されることなく睦み談ろうとする女性に対しては男性は自ら誘惑すべきであり、そうでない女性に対しては媒介をする女性を用うべきである、と説いています。
女性を自ら口説こうとする男性は、まず彼女と知り合いになるべきである、と説いています。女性との出会いは、自然に起きる場合と人為的に導かれる場合とがあります。
自然に起きる場合というのは、自分の住む家の近くで偶然に会ったといういうような場合です。人為的に導かれる場合とは、友人とか親族とかの家の近くで会うとか、また結婚式や祭典や宴会や遊山に行ったときに会う、というような場合です。
彼女と出会ったときには、男性は絶えず意味ありげに彼女を見つめるべきである。頭髪を整えたり、爪を鳴らしたり、装飾品の音を立てさせたり、下唇を舐めたり、その他種々のしぐさをすべきである。仲間とひそひそ話をしたり、彼女の言葉に耳を傾けたりすべきである。彼女の膝にいる子供をあやしたり玩具を与えたり返してもらったりして、親密となって話の糸口をつけるべきである、と説いています。
次回は、人妻に対する具体的な誘惑方法について、書いてみたいと思います。
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