日本で初めての混浴禁止令は、797年(延暦16年)に発出されています。日本紀略には、奈良では785年(延暦4年)以来、僧尼が淫濫をきわめ、との記述があり、功徳湯において、僧(仏教の男性出家修行者)と尼(仏教の女性出家修行者)が男女混浴で乱行していたと想像できます。
江戸時代には、大都市で銭湯が大衆化し、銭湯に垢すりや髪すきのサービスを湯女(ゆな)に行わせる湯女風呂などが増加しました。当時の湯屋は、湯女による売春の場にもなっていました。湯屋における売春を取り締まるため、松平定信が、1791年(寛政3年)、江戸の銭湯での混浴を禁止する男女混浴禁止令を出しています。しかし、徹底はしなかったようで、依然として混浴が主流でした。
1853年(嘉永6年)に来日したペリーが帰国後に政府に提出した「ペリー艦隊日本遠征記」には、男女混浴の風習を罵倒する一節があります。この報告書は、ペリーの依頼を受けた牧師がまとめたものであり、牧師の立場で厳しい男女混浴批判をしたとも言われています。この他にも、外国からの訪問者による手記や旅行記などで、男女混浴を理由に日本人蔑視論があいついでいます。一方で、男女混浴は蔑視の対象ではなく文化の違いであると、男女混浴に好意的な外国人も多くいたと言われています。
明治新政府は、国辱であるとして、1868年(慶応4年)6月、開港地である横浜で薬湯の男女混浴を禁止しました。同年8月、東京・築地を外国人に開放するため、付近の銭湯の男女混浴を禁止、その後、各地で男女混浴が禁止されました。東京府では、禁止令がまったく効果がないということで、再三にわたって男女混浴禁止のお触れ書きを発出しています。各地で男女混浴禁止令が発出されていますが、効果がなく、1872年(明治5年)11月、全国統一の軽犯罪法である違式詿違条例(いしきかいいじょうれい)が制定され、男女混浴は犯罪となり、罰金が科されることとなりました。
都市部では取締りが強化されましたが、地方では、自治体が率先して男女混浴の承認を目指す動きも見られました。1876年(明治9年)に内務省が承認し、城崎温泉や有馬温泉などで男女混浴が復活しています。また、各地で事実上の混浴が復活しています。
男女混浴禁止はなかなか守られなかったことから、1879年(明治12年)に内務省は湯屋取締規則を制定するなど、男女混浴禁止令はたびたび発出されました。公衆浴場で男女混浴が完全になくなったのは明治末期になってからです。しかし、地方の温泉地などの多くでは、男女混浴が当たり前という時代が昭和30年代まで続きました。一時期、千人風呂と呼ばれる男女混浴の温泉プールが全国で流行ったこともありました。また、男湯に女性が押しかけて混浴化する風景も多々あったようです。女性は好奇心旺盛ですね。
高度成長期以後、都市部の住民が地方の温泉地を訪れる機会が増え、男女混浴という風習を容認できない観光客が増加したことや、売春防止法や東京オリンピックの影響で男女混浴禁止が指導されたことから、多くの旅館やホテルが男女別浴化に取り組んできたこともあって、昭和40年代以降、男女混浴は減少の一途をたどりました。
現在、男女混浴は法律上は禁止されていませんが、厚生労働省が「公衆浴場では混浴させないよう」指導しており、都道府県あるいは保健所を設置する市や特別区が定める公衆浴場条例によって、規制されています。
厚生労働省は、1948年(昭和23年)8月、公衆浴場法第3条第1項に規定する「風紀に必要な措置」について、厚生事務次官通達(厚生省発第10号)により、「主として男女の混浴の禁止を意味するものである」旨の行政指導を行なっています。
具体的には、厚生労働省の「公衆浴場における衛生等管理要領」を受けて、都道府県等が公衆浴場条例を定めています。内容としては、脱衣室は、男女を区別し、その境界には隔壁を設けて、相互に、かつ、屋外から見通しのできない構造であること。浴室は、男女を区別し、その境界には隔壁を設け、相互に、かつ、屋外から見通しのできない構造であること。とされています。
温泉地における日帰り入浴施設を規制する法律は公衆浴場法なので、都道府県等が定める公衆浴場条例により男女混浴が規制されていますが、貸切風呂についての公衆浴場条例の扱いはバラバラです。例えば、「瀬音の湯」のホームページでは、貸切風呂について、「東京都の条例により混浴が禁止されておりますので、ご夫婦などのご利用も禁止となります」と記載されています。旅館と違い、いちいちチェックのできない日帰り入浴施設においては、風紀の維持の面では、安易に貸切風呂の男女混浴を認めると、無店舗型風俗店のサービスなどに使われるといいう懸念があると考えて、禁止しているのかもしれません。
男女混浴禁止の例外としては、乳幼児に対する配慮として児童のほか、家族風呂などにおいて専用で利用する場合は、夫婦や家族、介護者の場合に限り男女混浴の禁止を解除する旨の規定が設けられている条例もあります。また、水着などの着用を義務付けた施設については、男女混浴禁止の例外を認めている自治体もあります。
旅館やホテルでは、厚生労働省の「旅館業における衛生等管理要領」で、共同浴室を設ける場合は、原則として男女別に分け、各1か所以上のものを有すること。とされています。新規の開設は認められませんが、既に男女混浴であるところは存続されており、一部の温泉地では、男女混浴が残っています。なお、共同浴室を設ける場合は男女混浴が禁止されるのであって、共同浴室ではない貸切風呂や家族風呂では、男女混浴は可能です。
次回は、児童の混浴は何歳まで可能かについて、詳しく書いてみたいと思います。