変態性欲とは、人間の性的行動や性欲のありようにおいて、正常と見なされない種類の性嗜好を指しています。大正時代から昭和初期にかけての精神医学における用語でしたが、現代では、青少年保護育成条例などに法令用語として用いられています。
例えば、「神奈川県青少年保護育成条例施行規則」では、第3条「有害図書類とする図書類等の内容」の事例として、性交又はこれに類する性行為で「変態性欲に基づく行為」を被写体とした写真又は描写した絵、という表現となっています。なお、「変態性欲」が具体的にどのような内容なのかは記述されていません。取り締まる側の主観でどのようにも解釈されてしまいかねません。参考までに、「同性間の行為」も、有害図書の事例とされています。
日本においては大正時代に「変態性欲」ブームが起きて、文学者から民俗学者まで様々な人が変態性欲について論じています。なお、時代の推移や医学の発達により、その意味内容は変わってきています。
一般的に、「変態性欲」とは、通常の生活において性的魅惑を生じない(あるいはそう考えられている)行為や状況に対し、性的興奮を覚える心理を指します。しかし、どのような「行為や状況」に性的興奮を覚えるのかは、個人によって様々です。性を不潔なものと考える人にとっては、すべての性行為が変態行為です。大正時代には、オナニーが変態性欲と見なされていました。現代は、フェラやクンニは普通に行われる性行為ですが、それを変態性欲と感じる人はまだまだいます。
このように、時代によっても、個人によっても、微妙に意味が異なっており、変態性欲の意味内容自体に曖昧さがあります。変態性欲を(主に対外的に)行動に移すとき、場合によって、痴漢や痴女や変質者と呼ばれることがあります。
変態性欲者と変質者とは違いますが、変態性欲を理解できない人にとっては、変態性欲者も変質者も同じことと思われてしまいます。
変質者とは、性犯罪を行う者を非難するとき、あるいはストーカーを防犯の観点から語るときの主な蔑称です。語源は「退廃・変質」などと訳されるフランス語の degenere です。現代の日本では、変質者とは行為を非難するときの用語であって、性嗜好を非難するときの用語ではありません。「変質者」は、他人に迷惑をかけたり、反社会的行動をとったりする人です。
例えば、性嗜好として露出趣味があった場合、むやみやたらに露出すれば変質者です。公然でなくても、露出を不快に思う被害者がいれば、露出者は変質者です。
一方、露出を受け入れたり、見ることに快感を感じる人がいる場合は、露出者は変態性欲者(変態)として受け入れられます。ただし、被害者がいなくても、公然であれば、公然わいせつになります。
変態と変質者は似たようなものですが、変質者は街をうろうろする知らない人で、通り魔や痴漢がこれに相当します。変質者の行動は、危害を加えたり、恐怖感を与えたりするなど、犯罪になる場合が多いです。
変態は、性的に普通ではない行為をする人のことで、その行動は、パートナーや周囲の人の許可があれば、一般的に犯罪ではありません。恋人同士や同好者同士で、変態行為をして楽しんでいます。
なお、変態という言葉については、自分の主観による性行為を標準として、それから逸脱するような性行為を変態性欲による性行為と考え、それを実行する人を変態と呼んでいます。偏見に基づく決めつけのために、結果として、他者に対する侮蔑語、差別語として使用されることがあります。
個人の性嗜好は様々ですが、異性間の性器結合が標準と考えている人は、性器結合以外の性行為や同性愛などは、「正常」でなく、「異常」であり、「変態」だと思い込んでしまうでしょう。性交体位も、「正常位」が正しくて、「後背位」は動物のやることで変態だと思っている人もいます。
何が正常であるか異常であるかの考え方は、時代とともに変わってきます。現在は、医学的には、「同性愛」は「異常」ではありません。国際医学会やWHO(世界保健機関)では、同性愛は「異常」とはみなしておらず、治療の対象から外されています。同性愛などの性指向については、精神科の発達障害とは全く別のもので、矯正や治療しようとするのは大きな間違いであるとされています。一人一人の中で、「同性指向」と「異性指向」が一定の割合で存在しているというのが、人間という「種」の基本的性質であり、そのパーセンテージは、自分の意志で簡単に変えたり選んだりできない可変性の低いものになっています。したがって、同性愛を「変態」と呼ぶことは、医学的に正確ではありません。
自分は正常な性欲だと思っていても他人から見たら異常であったり、異常かなと思っていても他人は普通にしていたり、ということがあります。性に関する正常・異常の判断は、社会的および文化的背景によって異なり、また、個人差も大きいです。成熟した男女が、お互いに納得の上で行うのであれば、他人からは「変態」と思われても、気にせず、堂々と「変態」行為を楽しめば良いと思います。
次回は、性的倒錯について、書いてみたいと思います。