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男性が無精子症などの病気が原因で子ができない場合、正体不明の第三者から精子提供を受けるのを嫌がることがあります。
どうしても血を受け継ぐ男子が欲しい場合は、血族から精子提供を受けたいと思うのが人情でしょう。できるだけ近い血族ということで、夫の兄弟からというのもありますが、もっと近いとされる夫の実父という場合もあります。
夫の実父の精子で体外受精をし、118人の子が誕生したという衝撃のデータが、2014年7月31日、都内で開かれた日本受精着床学会で発表されました。それによると、1996年11月から、2013年末までの17年間に110組の夫婦が夫の実父(50~70歳代)からの精子提供を受け、79組が出産(双子を含む)。そのうち2回出産したのが17組。3回、4回が1組ずつ、ということです。
息子の妻に自分の精子で子作りをした場合、生まれてきた子は血縁上は子になりますが、戸籍上は孫になります。子供のできない息子夫婦を救う画期的な手段ですが、一般的には、家族関係が複雑になるという理由で、このような人工授精は行われていません。一方で、卵子がない場合は、姉妹などの親族の卵子を使って人工授精をすることは、一般的に行われています。
発表した医師は、「子が欲しいが、夫に精子がないため授かれない夫婦は、養子を迎えるか、もしくは精子提供を受けることを選択します。現在一般的なのは、匿名の第三者からの提供による人工授精です。しかし、顔も知らない他人からではなく、夫の実の父親からの提供を望むケースは少なくありません。匿名か、特定者か。それは、当事者が選択することが望ましいと私は考えています。今回の発表が、無精子症に悩む夫婦の選択肢が広がる契機になればと思っています」と語っています。
発表した医師によると、夫の実父の精子を使うかどうかは、夫婦に選択してもらっており、夫の実母や妻の両親などが反対する場合は、治療を行わず、カウンセリングを重ねて、当事者夫婦と提供者夫婦の全員に納得してもらった上で、慎重に実施しているそうです。
女性からすれば、赤の他人の精子ではなく、好きになった夫の遺伝子に少しでも近い夫の実父からの提供を選ぶということは、自然な考えでもあります。
厚生労働省は2003年、「匿名の第三者からの精子提供は認めるが、兄弟らからは家族関係が複雑になるため認めない」とする旨の報告書をまとめています。いわばこれは国が定めた「倫理規定」です。それに真っ向から反発する事実を示した今回の発表。それだけに、この行為に対して医師の賛否は大きく割れています。
義理の父の精子を体に入れること自体に違和感を覚えるという人もいます。ある女性産婦人科医は、「あくまでも精子をもらうだけで、舅とセックスをするわけではないが、生理的に嫌悪感がある。誰だかわからない方が、気持ちが楽。赤ちゃんの顔が夫よりも義父に似ていたら、複雑な気持ちになる」と言っています。
義理の父の精子を受け入れている背景には、パワハラがあるのではないかという意見もあります。夫の実家側の「何としてでもうちの血のつながった子を産め」という圧力があり、義理の父の精子をもらうことに、同意しているのではなく、同意させられているのではないか、と。
ある女性精神科医は、「家族の問題は予期せぬところで起きる。『戸籍上の孫』に愛着を持ってしまった祖父が、突然『我が子』だと言い出すことは充分に考えられる。子が『血縁上の父』を本当の父だと感じ、異母兄弟にあたる『戸籍上の父』を毛嫌いすることもあり得る。血縁関係がはっきりしている分、トラブルが起きたときの家族関係は、より複雑になる」と懸念しています。確かに、このようなことは、歴史上では、よくあるトラブルです。
法律上は、妻が産んだ子は夫婦の嫡出子として戸籍に載ります。夫が同意して行われた非配偶者間人工授精で生まれた場合、夫は、その子が嫡出であることを否認することはできません。DNA鑑定で祖父の子であると証明されても、戸籍上の親子関係が覆ることはありません。
女性は、夫の実父からの精子提供を疑問視する声が多いようですが、男性には、支持する意見もあります。
ある男性医師は、「夫の実父ほど、素性がはっきりしている遺伝子はない。正体不明の第三者から精子提供を受けるのを学会が認めているのはけしからん。提供者は絶対匿名が条件であるため、生まれた子が将来、精子提供者やその子と近親婚をする可能性がある。その状況は、身内から精子提供を受けるよりも不健全」と言っています。
議論の契機となった発表をした医師は、「見知らぬ第三者よりも、夫の実父のほうが家族関係を構築しやすいと思う人は多いです。実の親は、最も利害関係がない存在です。それに、提供者の妻は夫の母であるため、提供に非常に協力的な傾向があります。家族関係さえしっかりしていれば、たとえ子が成長していく過程で問題が起きたとしても、話し合うことで解決できるはずです。夫の実父の精子提供を実施し始めてから17年以上が経ちました。しかし家族関係に悩んでいるという報告はありません」とも語っています。
次回は、妊娠検査薬、について書いてみたいと思います。