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妊娠したくない場合に、避妊に失敗したかもしれない時は、緊急避妊薬(アフターピル)を服用し、排卵を抑制するとともに受精卵が子宮内膜に着床することを防ぎ、妊娠が成立する可能性を減少させますが、受精卵が着床(妊娠の成立)した後では、効果はありません。既に妊娠が確定してしまった場合は、人工妊娠中絶手術を行うことになります。厚生労働省によると、2020年の国内の中絶件数は14万5340件。世界保健機関(WHO)は2012年に発表したガイドラインで安全で効果的な方法のひとつとして妊娠中絶薬を推奨していますが、現在、日本では手術しか選べません。
中絶手術は、胎児を包んだ胎嚢などを子宮内から金属製の鉗子やスプーン状の器具で掻き出す「掻爬法」、ストロー状の管を挿入して子宮内の胎嚢などを吸い出す「吸引法」、この2つの併用が一般的です。吸引法には、電動吸引法(金属器具使用)と手動吸引法(プラスチック器具使用)があります。なお、吸引法は中絶薬と並んでWHOが推奨する方法ですが、掻爬法は、子宮内膜の損傷などの合併症頻度が高く、また、かなり大きな痛みを伴うことから、推奨されていません。しかしながら、日本の産婦人科においては、掻爬法が主流となっています。
中絶手術は、都道府県医師会が指定した医師によって、指定を受けた施設でのみ実施が認められています。母体保護法では、身体的、経済的理由で妊娠の継続が母体の健康を著しく害する恐れがある場合や、暴行脅迫を受けて妊娠した際に行うことができるとされ、妊娠22週未満に実施。母体の安全のため、妊娠11週までが望ましいとされています。
WHOが推奨する中絶薬とは、薬を服用することによって、人工的に流産を引き起こす方法です。中絶薬とは、「ミフェプリストン」と「ミソプロストール」の2つの成分を併用することで妊娠の維持に必要な女性ホルモン「プロゲステロン」の作用を止め、人工的に流産を引き起こす薬です。成功確率は92~95%と言われています。
中絶薬は、1988年に世界で初めてフランスで承認され、WHOは現在、「必須医薬品」に指定しています。WHOが「母体と心への影響が少ない中絶法」として推奨しており、海外では妊娠7週以内の中絶ではもっとも一般的に用いられる手段です。日本でも治療的流産として用いられることがあり、肛門から挿入する座薬は、数時間で効果を発揮しています。
しかしながら、中絶薬は日本では未承認であるため、薬事法により譲渡も販売も禁止されています。従来は少量であれば個人輸入ができていましたが、2004年に個人輸入への制限が設けられたため、現在は海外からの個人輸入はできません。ただし、医師の処方や指示に基づき本人が行政機関の許可を得た場合には、個人輸入が可能です。
実際には通販などで個人輸入が依然として行われており、厚生労働省が注意喚起を行っています。なお、個人輸入で中絶薬を使用して中絶した場合は、刑法212条の自己堕胎罪(妊娠中の女子が薬物もしくはその他の方法で自ら堕胎)という罪に問われ1年以下の懲役になります。また、未承認の医薬品を販売・譲渡した場合は、医薬品医療機器等法の違反になり2年以下の懲役または200万円以下の罰金になります。2020年11月には中絶薬を自宅に保管していた男性が医薬品医療機器等法違反の疑いで逮捕されています。
中絶薬の副作用は、腹痛、嘔吐、発熱以外にも膣内の大量出血や敗血症による細菌感染を引き起こす場合があります。また、子宮外妊娠に対して中絶薬を使用した場合には、卵管が破裂してしまう危険性もあります。2018年4月に個人輸入で中絶薬を使用した20代の日本人女性は、多量の出血やけいれん、腹痛を起こし、宮城県仙台市内の医療機関に入院したという事例があります。(その後回復し退院しています。)中絶薬は副作用で死亡するケースもあるため、承認されている欧米諸国でも医師による継続的な診察が必須となっています。
飲む中絶薬(経口中絶薬)は、最近、日本で承認申請が行われました。英国の製薬会社ラインファーマは、2021年12月22日、妊娠を中絶するための経口薬について、厚生労働省に製造販売の承認申請をしたと発表しました。現在日本国内では人工妊娠中絶の手段は手術に限られていますが、承認されれば初めて飲む薬が選択肢となり、女性の心身への負担が軽減される可能性があります。
国内の治験には、妊娠9週までの18~45歳の中絶を希望する女性120人が参加。妊娠を維持するために必要な黄体ホルモンの働きを抑える薬「ミフェプリストン」を1錠服用。2日後に子宮の収縮を促す薬「ミソプロストール」4錠を飲んだ後、経過を観察。その結果、112人(93.3%)が、24時間以内に胎児を包んだ胎囊が体の外に出て、中絶に至っています。副作用も出ていますが、いずれも回復し、9割以上が軽度か中等度だったとされています。下腹部痛(30.O%)や嘔吐(20.8%)が多かったそうです。今後、医薬品医療機器総合機構(PMDA)が審査し、早ければ1年以内に承認される可能性があります。
国内では承認されていない経口妊娠中絶薬は、ときに手術が必要となる出血を起こすことが知られており、欧米でも医師の処方と経過観察が必要とされる医薬品であるため、安易に個人輸入し、使用することによる健康被害が懸念されます。そのため、厚生労働省は、医療機関を受診しないで個人で使用することの危険性をホームページや報道機関を通じて呼びかけるとともに、個人で輸入して安易に使用されないよう、各都道府県に対し、個人輸入代行業者のインターネット上の広告等について、監視指導の徹底を依頼したり、インターネットで広告を行っている個人輸入代行業者やプロバイダに対して警告メールの送付を行い監視指導の強化を図っています。
次回は、男性用経口避妊薬について、書いてみたいと思います